大丈夫
私が小さかった頃、私は物凄く平和主義者だった。
友達がプリキュアごっこでどっちがプリキュアでどっちが悪者をやるか喧嘩していた時は、私が悪者を進んでやり、二人にプリキュアをさせていた。
大きくなって、正義感が強い子になった。
中学に入って、リーダーをする回数が増えた。
同時に正義感ももっと強くなった。
いじめられている子には積極的に話しかけた。いじめている現場を見かけたら止めていた。
そしたら、気がついたら自分がいじめられていた。
だれも味方してくれなかった。
学校に行ったら机や椅子が外に放り出されていて、
荷物を置いて外に出たら荷物がゴミ箱に捨てられていた。
靴も無くなった。
机の上にはゴミが置かれた。
死ね、と言われた。
トイレでそっと泣いた。
大丈夫、私は強い、と言い聞かせながら、泣いた。
いじめは2週間続いた。
別のクラスの友達はいじめの事実を知らなかったので、クラスが変わると、普通に学校生活を送れた。
お父さんが家のお金を持って逃げた。
泣きわめく母親に、大丈夫だよ、私がどうにかするからね、と励ました。
泣くほどの余裕も与えられなかった。
弟の学費も、私が出すと決めた。
私は、別の人格を作り上げようとしていた。
私じゃない私は、みんなに愛されるようになった。
それから、大丈夫、は私にとって魔法の言葉になった。
絶対に付属高校には行かないと決意して、堀川高校に入学した。
頭がいい人たちが揃うこの高校で、イジメなんてものはなかった。
委員会や部活などで大変だったけど、大丈夫、私は強い、と言い聞かせて毎日を過ごしていた。
時々中学の頃を思い出して泣きそうになったけど、大丈夫、と言い聞かせていた。
好きな人に彼女がいた時にも、大丈夫、と言い聞かせた。
彼氏に振られた時も、大丈夫だよ、と言い聞かせた。
受験に失敗した時も、大丈夫、と言い聞かせた。
予備校に入って、昔の友達と会った。
中学の頃、私をいじめていた人に、久しぶり〜!と手を振られた。
なかったことにしよう、ほら大丈夫だよ、と言い聞かせた。
浪人生は、病みやすい。
周りの友達も、そのうちの一人だった。
友達が泣いているときは話を聞いた。
死にたいと言う友達の話だって、ずっと聞いていた。
自分がどんなに泣きたくても、我慢した。
時折、勘の鋭い友達に、大丈夫??と聞かれた。
自分が300悩んでるうちの、2くらいしか話せなかったし、
頼って拒否されるのが怖くて、ほとんど言えなかったし、大丈夫だよ、と返していた。笑顔で。
そうやって演じていると、本当に自分は大丈夫な気がした。強くなれる気がした。
なんで時々泣きたくなるのかな、と思っていた。
対人関係で悩んだ時も、大丈夫だと言い聞かせた。
なんでも言いなよと言ってくれた友達にさえ
心を開かなかった。
予備校の男友達たちにブスだと罵られた。
へらへらと笑って誤魔化した。
大丈夫だよ、冗談だって、と言い聞かせた。
弄られる回数は増えていった。
気がついたら、泣いていた。
大丈夫、は魔法の言葉では無くなった。
一つ上の友達に、電話した。
できるだけ、明るく。
笑いながら。
泣いていいんだよ、と言われた。優しすぎだよ、とちょっと叱られた。
私は、大丈夫では無かったことに、ようやく気がついた。
思いっきり泣いた。
大丈夫という言葉は、私を守るものではなく、私を潰すものだと気がついた。
けれど、私は、大丈夫と言い聞かせる以外に、自分を守る方法を知らない。
だから今日も私は、大丈夫だと言い聞かせる。
誰かに、助けを求めることさえ、許されない。
ねえ
ねえ
お願い
助けてよ。
大丈夫、以外に私を救う方法を、
誰か教えてよ。
■
きっと君は私がこうなることに気づいていて、言いたくなかったんだろう、と思った。
そして案の定、そうなった。
自殺したい、とは思わない。死んだら自分を責めるだろう。あの時言ってしまった自分を。
だけど、生きていたいとは、思わなくなった。私と君が変われたらいいのにと思った。病気になったら分かるだろう。
もしそれができないのなら、事故にでも巻き込まれて死にたいと思った。
ごめんね。
■
凄く、気を遣われているんだろうなということを感じる。
そして同時に、拒否だとも感じてしまう。
気にしないでね、心配しないでね、は私には、部外者のお前が入ってくんな、に聞こえるのだ。
きっと強がりなんだろう。
でも、
でも、
私からしたら、君は大事で、知らないと思うけど凄く凄く大事で…
たまに君のせいで泣きそうになる。
どうしてくれるのよ。
大好きがゆえに、
これ以上迷惑かけないために離れなきゃ、という気持ちと
一緒にいたい気持ちが交差する
どうしてこう諦めが悪くなったんだろう。
昔は違った。
諦めもよかったから、傷つかずに済んだ。
どうして、会いたいと思ってしまうんだろう。
会いたい。
会いたいよ。
君のおかげで、毎日頑張れたんだ。
君が遠くに行ってしまうと感じる。
会いたいよ。
君が、大事です。
いつも困らせてごめんね
わがままばっかりごめん
そろそろ
この気持ちに終止符を打たないと。
■
私はお金がないので、大学に行けても借金まみれです。
専門学校に行って資格を取れ、と親は言います。
私は、正直どっちでもいいです。
そんなある日、ハワイの親戚から、ハワイに帰ってこないかと連絡が入りました。
たしかに、ハワイなら、やっていけるとは思います。
ただ、遠いし、身寄りはその親戚だけです。
何より、何かあった時にすぐ日本に帰れない。寂しくても、辛くても、今みたいに会いに行けないのです。
不安です。
離れたくない。
だから、大きな賭けに出ます。
親父を、探しに行きます。
親になるということ
昨日、友達とイオンで買い物をしていたら、ふと家族連れが目の前に現れた。
お母さんに抱っこされている2歳くらい男の子と、お父さんと手を繋いでいる5歳くらいの男の子。上の子が、お母さんに、僕も抱っこ、とせがむ。お母さんはまぁくん抱っこしてるでしょ、とお父さんが宥める。もう仕方ないわねぇ、甘えん坊さんなんだから、お兄ちゃんでしょ、とまぁくんをお父さんに預け、お母さんは上の子を抱っこした。
ただ、それだけの光景だった。よくある光景じゃないか。どこでもある、当たり前の、光景。
なのにどうして泣きそうになったんだろう。
分からない。自分が普通ではない家庭環境だということをひしひしと感じたからだろうか。親に愛されたいと思ったからだろうか。そんな感情はとっくの昔に捨てたはずだった。じゃあ、何故だろう?
泣きそうになった私に、死にたいと願う友人は言った。
「きっといいお母さんになるよ。俺そんな気がする」
どうだろう。子供はたしかに欲しい。でも、私は子供の愛し方を、知らない。きっとすごく不器用な愛し方しか出来ない。そんな人間が子供を欲しいだなんて、良いのだろうか。
頭の中に父親がチラつく。酒に溺れ、アル中となり、酒がなくなると私を殴った父親がいる。その父親の姿が、だんだん鮮明に思い出されてくる。痛い。苦しい。残像に、消えてくれ、消えろ、と叫んだとき、友達ののんびりした声が心地よく耳に入ってきた。
「周りにそんなに恵まれてる人、俺は知らないよ。あんま詳しく知らないけど、父親には恵まれなかった、けど周りにそんなに恵まれてる。今年だって、周りの人が誕生日を祝ってくれるよ。勿論、俺も」
周りに恵まれてる…たしかにそうだった。親に誕生日を祝ってもらったことは無いと思う。そして私の父親は私が何歳かすら知らない。
でも私には周りの人がいた。
親のために生きようとは思えない。けれど、周りの人間のために、私は今日も生きる。